大切な〇〇

あの子に好きな人がいるかもって他の友達から聞いた。
「かも」だから、もしかしたらいないかもしれないよって
後から付け加えられた「かも」の言葉だったけど
そんなこと言われたって時は既に遅しで俺はあの子が好きで
今さら「じゃぁ、やめた」って気持ちにブレーキなんてついちゃいないし
「かも」だから、いない可能性だってあるかもしれないし。
だから俺は思い切って友達に言ったんだ。

「今日、俺は告白する!」

そしたら友達は「おぉー」と言って色んな作戦を練ってくれた。
まずは ”何処に呼び出すか” から始まった。
「やっぱ人気のないところだよなー」とか「あの子の家の近くの公園は?」とか
色恋沙汰に縁の遠い男3人でヒソヒソ話し合った。
良い友達を持ったなーなんて感動しまくった。
場所が決まったところで授業の始まるチャイムが鳴り響いた。

「そしたら次の休み時間に何て言うか話し合おうぜ!」

一人の友達が張り切って言った。
なんだか俺より他の友達がノリノリなのが可笑しかったけど有難かった。
席について斜め前のあの子の後ろ姿を見ていたらドキドキしてきた。

(今日、好きって言うんだ・・・あの子に)

そんな事で頭が一杯になってきて授業の内容なんて入ってこない。

(今日、好きって言うって皆にいったけど言いたくなくなってきた)

思い切って言ってみたものの、上手くいかなかった時の事なんて考えてなく
あの子の後ろ姿を見ていたら急に怖気づいてしまった。
次の学年に上がるまで後半年以上もある。
振られたら後半年以上気まずい感じで過ごしていくのかと思うと
やっぱり言うのやめようかなと思考がナシの方向に流れていく。
意気地なしって言われたらそれまでだけど、振られるって相当きつい。
好きな人がいる「かも」しれないし・・・
他に好きな人がいたら当然振られるだろうけど。
でも「かも」だから好きな人がいないかもしれないしな。
いないとしても上手くいく可能性なんてどんだけあるんだよって話で。
あーだこーだ考えてるうちに休み時間に突入。
はや!
いつもならば授業終わるの遅いのに今日に限って早い。
そして速攻友達が集まってくる。
近所のおばちゃん並の早さだ。マジでビビる。

「で、何て言う?」

子供みたいに目をキラキラさせて友達が言った。
ま、俺達はまだ子供と言えば子供なんすけどね。

「いや、思い切って言ってみたものの、やっぱやめようかな・・・」

俺のそんな情けない言葉を聞いて友達はガックリした表情に変わる。

「えー!お前何言ってんだよ?自分から言ったじゃん!」

「考えたんだけどさ、もし振られたら次の学年に上がるまで微妙じゃん?」

「振られたらの話だろ?仮に振られたとしてもだ、あれだ。いい思い出だ!」

「お前らにとってはいい思い出だろうけど、俺は違うわ!」

と、憤慨する俺の肩をポンポンと叩き「男だろ?」と言い放つ。
ほっんと、色んな意味で良い友達をもったな、俺。

「大丈夫だって。何かあったら俺達がいるじゃん」

それはそうなんですけど。

「では気を取り直して作戦練りますかー」

楽しそうに奴らは話し出す。
何がそんなに楽しいんだ。

そして夕方。
「頑張れよ!」の言葉を背に俺はあの子の家に向かう。
結局、家に行ってあの子を公園に連れ出す言になった。
いきたくねぇーといつもより歩幅が狭くなる。
それでも着実にあの子の家までの距離は短くなる。
どんどん緊張してきて、いっそ回れ右で自分の家に帰りたい。
皆で考えた決め台詞を頭の中で復唱してたらいつの間にかあの子の家の前にいた。
あやうく通り過ぎるところだった。

(このまま通り過ぎてもよかったんですけど)

家の前で言うか言わまいか腕組しながら自問自答してたら
通り行く近所の人達にジロジロ見られていくんでひとまずチャイムを押すことにしてみた。
押そうとして引っ込めて、決意決めて押そうとしてひっこめて・・・

(男だろー俺!頑張れよ!)

勢い任せに押した後にすんげー後悔した気分になる。
帰宅してなくてもいいんですよ?
願いは虚しくインターホンから聞こえてきた声はあの子。

「どちら様ですか?」

相変わらず可愛い声だなぁってうっとりしてたら「あの・・・?」と怪しんでる声が聞こえてきたので
慌てて名乗る声が裏返ってしまった。
か・・・かっこ悪!
今から告白する男の声じゃねぇ・・・
一人で顔を赤らめていると返事が返ってきた。

「えぇ?佐々木君?どうしたの?ちょっと待ってて!」

インターホンは静かになった。
空ではカラスが「アホーアホー」と鳴いて「うっさいわ!」と独り言。
こうでもしてないと落ち着かない。いや、何をしても今は落ち着かない。
あの子を待ってる間、心臓がドドドドドと工事現場みたいな音で騒ぐ。
あー俺、死ぬわ。心臓麻痺して死ぬわ。
カチンコチンで硬直したまま五分。
ドタドタ音と同時にガチャっと玄関のドアが開いた。

「ごめんね!待たせて。急にビックリしたよぉーどうしたの?」

ニコっと笑うあの子に俺はもう瀕死状態です。
頭に血液は流れていってるのか不安になるぐらいフラフラです。
グっとだんまりしている俺に「佐々木君?」と問いかける。

「あ!いや、大した事ではないんだけどね、はははは」

乾いた笑い声に不思議そうにあの子が「ふーん」と言う。

(違うだろ!・・・あれ?何て言うんだったけ?)

軽くパニックになって「えっと、えっと」と繰り返す俺に「ここじゃなんだから」と公園に誘われた。

「そうそう!それ!公園に行かない?」

「何いってるの?今行こうって私言ったじゃん」

「え?あ、うん、行こう」

「今日の佐々木君なんか変だね」

うぅ、穴があったら入ってしまいたい・・・
情けなくて申し訳ない。
苦笑いするあの子の後ろを歩きながら心臓は相変わらず工事現場みたいです。

(あぁ、俺言うんだー好きって言うのかー。絶対振られるだろうなぁ)

言う前からブルーになって、まるで世界の終わりみたいに俺は暗くなる。
家に帰りたい・・・
あれだな。
怒られると解ってて怒られに行くような気分。
もー重々だ。
気分も身体も足取りも。
何を言うのか、どんな言葉で想いを伝えるかなんて考えきれなくて
とにかく家に帰りたいので頭は埋めつくされる。
あの子も無言だし、俺も無言だし。
何か話した方がいいんだろうけど何話していいかわかんないし。
悶々としてたら公園についてしまった。
何回も言うけど、はや!
17時前で遊んでいる子供は少なかったけど居るは居るんだよねー
こんな時に限って。
ちびっ子共にはまだまだ縁遠い話だが生き証人になるのか、お前らは。
「あそこのベンチに座ろう」とあの子が指差したベンチは赤いベンチでカップルに似合いそうなベンチだった。
促されるままベンチに座り遊んでる子供をあの子と眺めた。
周りから見たら、俺達ってカップルに見えるのかな。
この光景を客観的にみたい・・・
でも座ってる二人の間の距離は広くてぎこちなくて。
もじもじしてる俺を尻目にあの子がじゃべりだした。
それは他愛もない事で、学校とか先生とかクラスの奴のことや進路のことなど。
学校でも話せるようなことだったから俺も普通に話せるようになった。
気持ちが緩くなった俺に間髪いれずあの子が質問してきた。

「ねぇ、佐々木君。今日はどうして家まで来たの?」

一瞬、心臓止まるかと思った。
思わずむせる俺を見てあの子が笑った。
か、確信犯ですか!?
そ、その笑顔は最上級の犯罪に近いものがありますよ!!

「いや、あの、えっとですね・・・」

今まで調子良く話していた俺は何処へやらで、しどろもどろ俺、降臨。
神がかった慌てっぷりに、あの子は不思議そうな表情をしている。
あぁ、見えるよ。
あの子の頭の上に沢山の「???」が浮いているのが、今の俺には見える。

「なんか、可笑しい。佐々木君って面白いね」

「あはははは・・・」

乾いた俺の笑い声が虚しく、頭の中で響いている。
このまま、何もなかった事にして帰ってしまいたい。
ただ一言、好きだと想いを伝えるだけなのに、どうしてこんなに言えないものなんだ?
振られるのが怖いから?
嫌われるのが嫌だから?
・・・いかんいかん。
言う前から、こんなに後ろ向きでどうする俺。
ぐっと両手を握り締め、頑張れ俺!言うんだ俺!男には、やらなきゃいけない時がある!それが今なんだ!と、己に喝をいれる。

「俺は!!!!」

喝の入れすぎで、大声で叫んでしまった・・・
そんな自分に正直、自分でも驚いた。
でも、そんな俺以上に驚いている人が居た。あの子が目を丸くして、ものすんごく驚いている。・・・まばたきもせずに。

「あ・・・」

やべ・・・
なんか変な汗出てきた。
へへっと笑った顔はきっと引きつってるに違いない。

「急に大きな声出して、どうしたの?・・・びっくりしちゃったよ!」

と、あの子は引く様子もなく、「もー驚かさないでよぉ」と僕の背中をバンバン叩きながら笑う。
なんだか僕も可笑しくなって、あの子と一緒になって大笑いした。

「俺もびっくりした!」

「自分で大きな声出しといて、びっくりするなんて可笑しい~」

あの子も俺も、二人してお腹をかかえて大笑い。
すごい笑ってたら、気持ちがめっちゃ軽くなったのが解った。
なんでだろう、笑ったからかな?
俺が引き起こしたびっくり事件なんだけど、あの子が笑いに変えてくれたから気持ちが楽になった。
あの子は俺のマイナスをプラスに変えてくれる、そんな感じがする。
もしかしたら、あの子じゃなくても笑ってたかもしれんけど。
だけど俺には、あの子は本当に特別な存在で、出来れば大笑いしあいたい女の子は、あの子以外見当もつかない。
そう感じたら、思うよりも先に口にしていた言葉。

「俺、桜木が好きだ」

「え・・・?」

あの子の笑い声が、ぴたっと止まる。
あれ、俺、今何て言ったんだろう?ってちょっと考えてしまったけど、あの子の真剣な表情に、自分の発した言葉を思い出した。
俺、今好きって言った!しかも、さらっと言ってしまった!
違和感のないBGMの様に、流れるように言ってしまった。
また、変な汗出てきたぞ、おい。

「ほん・・・と?」

「え!!あ!う、うん」

もう、言ってしまったからには引き下がれない。
ごめーん、嘘!って誤魔化せる雰囲気でもないし、ここで誤魔化したらあの子に失礼だ。
告白するつもりで覚悟を決めていた訳だし、引き下がったら男が廃る。
心臓が、工事現場よりも激しくドドドドドドと騒ぐ。
俺死ぬかも・・・
このまま行けば、心肺停止すっかも・・・
早く、返事を下さい・・・
縋るような思いで、もう一回、「好きです。付き合って下さい!」とあの子に言う。
あの子は下を向いて、モジモジしていたから、ああ、ダメかと思った。
そうだよなぁ、好きな人がいる「かも」って友達が言ってたもんなぁ・・・
いない「かも」しれないけど、俺じゃダメって事もあるしなぁ・・・
出来ればYESの返事が良いけど、もうこの際、NOでも良い。
俺の心臓を黙らせてくれ・・・。
あー、でも何かダメっぽいよなぁ。この沈黙だっめぽくね?とか、明日からどんな顔して学校行ったらいいんだろ?とか、俺しばらく撃沈とか色々。
ほっんとうに色々な考えが頭の中を何回も超高速回転していた。しかも悪い結果ばっかり。
少しは、一個ぐらいは良い事頭の中回れっつーんだよ。
あーだこーだ色んな事考えて、それに対して自分で突っ込んで、どうやら頭の中には何人かの俺が居るみたいだ。
したら、もう考えるのが億劫になって、あの子にも考えさせるのが申し訳なくなってきた。
もういいや、って諦めた。
・・・返事聞いてないけど。

「ごめん、急に・・・」

帰ろうと思って、あの子に謝った。

「そんな事ないよ!ちょっとビックリしただけなの!黙っちゃってごめん!」

焦るようにあの子が言う。

「いや、いきなり言われてもビックリするよな。はは」

「そうだよ・・・誰だって、その、あの・・・す、好きな人に『好き』って言われたら・・・ビックリしちゃうよ・・・」

ん?
ん?
ん???
あれ?俺の耳、何かおかしくなったのか?
いや、まさか、まさかそんなはず、ないでしょ。
あの子の言った断りのセリフが、俺に都合が良い様に変換されて聞こえたのか?
げ、幻聴が聴こえ始めた・・・
あぁ、俺、緊張しすぎた糸がぷっつり切れて頭おかしくなったのかも・・・

「佐々木君?」

あの子の声に、はっと我にかえる。
心配そうな表情で、俺の顔をじっと見つめる。でもその頬は、ほんのり赤い。

「んあ?!・・・あ、ちょ、ごめっ!い、今ね、間違ってたらごめん!『好きな人に好きって言われたら』って言った?」

「もう!ちゃんと聴いてなかったの?」

ぷぅっと、あの子が顔を真っ赤にしてふくれてしまった。

「いやいやいや!聴いてたよ!ちゃーんと聴いてたけど、俺の聴き間違いだったらどうしようと思って!」

と、必死に説明する。そりゃもう死に物狂いで説明した。
そんな俺を見て、あの子はクスクス笑う。

「いやだってさ、桜木黙り込んじゃったからさ・・・こりゃ、ないわーと思って」

「ごめんね・・・でも、佐々木君がまさか私の事を想ってくれてるって思ってもみなくって。それに真剣に告白してくれたから、私もちゃんとした言葉で返事したくって・・・」

上目遣いでちらっと俺を見るあの子が「私、佐々木君の彼女になりたいな」って言うんだぜ。
鼻血出るかと思った。鼻血出て貧血で倒れるかと思った。貧血で倒れて頭打って記憶喪失になるかと思った。
・・・いや、最後の記憶喪失だけはノーサンキューだ。
せっかく、相思相愛だったというハッピーな真実を目の前にして、記憶無くなったらいかん。
そんなんじゃ、生きててもつまらないってもんだ、うん。
ごほん、と咳払いをし、仕切り直しをする。

「では、改めまして・・・。今日から俺は桜木の彼氏で、桜木は俺の彼女です!」

「はい、今日から私は佐々木君の彼女で、佐々木君は私の彼氏です!」

なんとも、結婚するかのように二人で宣言しまくって、お互いの携帯の番号とアドレスを交換しあった。
・・・なんか結婚指輪交換してるみたいでこそばかったけど、嬉しかった。

「えへへへ」

あの子・・・もとい、彼女が嬉しそうに笑うから、俺も嬉しさを隠せずにつられて笑う。
でも、本当のところ、叫んでしまうぐらい嬉しかった。
一人だったら、叫んで飛び跳ねて、そこらにいる通行人をひっつかまえて自慢しまくってたに違いない。
それぐらい俺にとってすごい事なんだ。
好きな人がいる「かも」しれないって知った時は、本当にショックというか悲しいというか何とも言えない気持ちになった。
でも、いない「かも」しれない可能性に賭けたんだ。
それでも必ずしもうまくいく保障なんて何処にもなくて、だからと言ってうまくいかない保障も何処にもない。
そんな葛藤の中で、俺は諦めるという選択肢は無いところまで俺の想いは到達していた。
振られた時の事を考えたら、まぁ、一瞬萎えたけど。
でも、まさか、彼女の好きな人が俺だなんて思うわけないわ。
二人で幸せの余韻に浸っていると、彼女の携帯が鳴り響く。

「あ、お母さんからだ。ちょっと待っててね」

そういうと彼女はベンチを離れ、1分ぐらいして戻ってきた。

「夕飯だから帰らなきゃ」

携帯の時計を見ると19時になろうとしている。思ったより時間は経っていたみたいだ。
当たりを見回すと、遊んでいたちびっ子共の姿がない。

「ごめんね、遅くなって」

彼女は首を横に振り、「いいの」と笑った。
俺は彼女を家まで送った。
まー、相変わらず他愛もない話ばっかしてたけど、今日から話す会話は俺にとって特別なものになるんだーってかみ締めた。
家に着くと、彼女のお母さん登場。
え!何故?!聴いてないし!
狼狽する俺に、彼女の母親が俺に話しかけてきた。

「送ってくれてありがとうね。ご飯でもって言いたいところだけど人数分しか作ってないから、今度来る時は前もって教えてね」

説教されんのかなーとかビクビクしていた俺は、予想外の言葉にぽかーんとなった。
ぽかーんとなった俺は、「あ、はい」と返事をして彼女の家を後にした。
帰宅途中、作戦を一緒に練ってくれた友達’Sにメールを送る。
したら、速攻返事。
メール見たら、「まじでか!!!!(喜)」とだけ書いてあった。
最後の「(喜)」が、何か一緒に喜んでくれてるんだなと、感謝した。
もう一人のメール見たら、「ちょ!!!(泣)」とだけ書いてあった。
最後の「(泣)」が、何か先にすまんと申し訳なくなったが、感謝した。
「マジでありがとう!感謝してるぜ!!」と返事を送ると、「やったな!おめでとう!とりあえず明日詳しく!!」と戻ってくる。
うーん、明日はどうやら奴らに捕まって彼女とゆっくり話す時間なんてなさそうだな。
でも、それでもいい。
茶化しながらではあったけど、真剣に俺の話を聴いてくれて、真剣に相談にのってくれた。
多分、こいつらがいなかったら、きっと本気で告白なんてしなかっただろうし、怖気づいた俺の背中を押してくれたのは他ならぬ、こいつらだ。
今日から、俺の人生は特別なものに生まれかわる。
それは、他の人から見れば些細もない事のようだけど、俺にとっては全く違う意味を持った人生に、なる。